2014年入社
プロダクトデザインとは、外見を格好良く見せることではありません。ましてや、いきなりイメージを描き出すようなこともない。「今、必要なのか」「なぜ、必要なのか」から考えることからはじまります。
僕自身も実際、「デザインをしている」とは思っていない節もあります。整理整頓をしているような、磨き出すような。そのものが本来持っている、本質的な良さを取り出すような。そんな仕事かなとも思うんです。
中川政七商店らしいデザインとは何か。まだ明確には言い切れませんが、経験を通じて見えてきたこともあります。「漁師のおもりで作った歯ブラシスタンド」を手がけた時のことです。
古道具屋でふと目に入ってきた、底引き網漁の陶器のおもり。使い込まれてすり減った佇まいが素敵で、気になったんです。ちょうど、歯ブラシ立てのリニューアルを抱えていた時期でもあり、頭の中でアイデアを探していたのかもしれません。穴も開いているし、向きを変えれば歯ブラシスタンドにできるかもしれないと思いました。帰宅後、陶器のおもりの歴史を調べてみると、古墳時代にはすでに使われていることを知り、その歴史の⾧さにも益々興味が湧いたんです。
まずはつくり手さんを探すことからだと、陶器屋さんや産地の情報にも散々あたる中で、今制作をご一緒いただいているマル信製陶所の加藤さんに辿り着きました。すぐにお電話をして会いに行ったんですが、産地の背景やおもり自体のユニークさなど、加藤さんからおうかがいするお話は尽きることがなくて、 すぐに夢中になりました。
それと同時に、おもりの火を絶やしてはいけないというか、必ずご一緒して、加藤さんのものづくりをたくさんの人に知ってもらわなければと思ったんです。
僕が特に惹かれたのは、おもりのつくり方。型に粘土を流し込んでつくる鋳込みではなく、出口を改造した土練機でつくる。土の塊を削るというシンプルさが美しいと思いました。
デザインをしていく段階では、家族の存在も参考になりました。親も子どもも一緒に、家族で使える歯ブラシスタンドにしたいなと思ったんですが、大人用の歯ブラシと比べると、子ども用の歯ブラシって持ち手が少し太いんです。親子で気持ち良く共有できるようにと、穴の大きさにはこだわりました。
それから、色も厳選しました。元々のおもりの色は茶色い、飴という色がほとんど。もちろんそれも美しいのですが、他の日本の釉薬も楽しんでいただけるようにと、飴以外にも、粉引に黄瀬戸・海鼠の4種類を揃えました。
釉薬には質感があるので、例えば粉引のマットな白はお母さんで、海鼠の深く艶やかな青はお父さんなんていう風に、違う色で楽しんでもらえたらとも想像しながら色を決める過程も楽しかったですね。
漁師のおもりの場合は、見立てを変えることで新たな命が吹き込まれて、歯ブラシスタンドに生まれ変わった。これは、奈良の特産品でありながら、時代とともに需要が減ってきていた蚊帳生地を、美しく機能的に再生して生まれた「花ふきん」にも通じる、中川政七商店らしい仕事だったと思います。
僕たちの仕事は、素材や技術・風習といった次代に残していきたいものたちを、現代の生きる人たちが手に取りやすいものや、現代の暮らしに寄り添えるものへ、アップデートしていくことなんです。
「産地のうつわ きほんの一式」という、4産地の窯元さんと共に現代の食生活に合う、5つの基本の形の器をつくる企画でも、これまでやってきたことへの自信をもらいました。
あるつくり手さんからは直接、「デザイナーは一般的に、自分の形やデザインを優先させて、つくり手がそれに合わせることが多いけれど、榎本さんは少し違った」という声をかけてもらいました。また、これは同僚から伝え聞いたことですが、「産地のことを知った上で、自分たちのものづくりを生かそうとしてくれた榎本さんと、一緒につくりたいと思った」と話してくださったそうなんです。
僕は、その土地の風土や焼き物の成り立ち、もちろん土の風合いなどの素材を知ることからはじめました。資料や書籍を読み込むだけではなくて、実際に土地への訪問も。そして、日本ではどんな器がどんな風に使われているのか、今の暮らしの中で使ってもらえる器にするためにはどうしたらいいかを思案した上で、企画を進めたんです。
これは、中川政七商店のプロダクトデザイナーとしてはあまりに当たり前のことですが、つくり手さんの言葉から、この姿勢がきちんと伝わっていることを実感した瞬間でした。
この企画は、たくさんのお客様に手に取っていただくという嬉しい結果となり、ご一緒くださったつくり手さんたちの素晴らしい仕事にしっかりとスポットライトが当たったことも、プロダクトデザイナーとして本当に嬉しい経験になりました。
「デザインをしているつもりはない」とお話しましたが、プロダクトデザイナーとして大切にしていることはあります。それは、普通を知ることです。
敬愛する建築家 中村好文さんの言葉ですが、「スーパーのもやしの価格を知ること」。毎日きちんと暮らす中で感じることは、多くの人が感じることでもあります。それを見逃さずに自分ごととして捉えることは、生活道具をつくる立場としては、とても大事なことだと思っています。
幾つもの経験を経て尚、プロダクトデザインはどこまでも探求していける仕事だと感じています。つくり手さんと共に、愛される商品をつくるために、プロフェッショナルでありたい。それと同時に「花ふきん」のように、「中川政七商店といえばこれだよね」と誰もがわかるような、代表作を手掛けることも目標のひとつです。
中川政七商店らしいプロダクトを生み出し続けていかなければ、会社は継続しない。中川政七商店の心臓部とも言える、プロダクトデザインを担える責任と喜びを、改めて感じています。