2018年入社
目指す姿を捉え、現実とのギャップを埋めるための施策を考え実行することが、コンサルティングなのだとしたら、私の場合は、前職でその基礎をつくってきたのだと思います。マーケティングを中心にしながらも、幅広いプロジェクトを数多く経験した、立ち上げたばかりの化粧品ブランドでの仕事。
例えば、どんなターゲットにどんなコンセプトを設定するのかからはじめる、ブランドのリブランディングや、ロイヤルカスタマーにブランドへさらなる愛着を持っていただくためのサービス設計。さらには、システムのリプレイスも。内容は様々ですが、どのプロジェクトでも「現状の問題が何で、どこを目指すために、今優先的に何をするべきなのか」を、考え続けてきました。
そして、私が今携わっているのは、中川政七商店でのコンサルティングの仕事。一口にコンサルティングと言っても、一般的なそれとは少し違っています。プロジェクトをマネジメントすることや、ターゲットとなる業界のインプットなど、共通することはもちろんありますが、一番の違いは守備範囲の広さ。ブランドや商品について、そしてそれらをどうお客様に伝えていくかのコミュニケーション設計、もちろん経営そのものも。
大企業であれば、中期経営計画があり、それに基づいて企業経営がなされますが、私たちがご一緒するのは、陶器や織物など工芸品をつくる中小メーカーさんがほとんど。自分たちがどうなっていきたいのかを、最初から明確にイメージしているケースは、かなり少ないんです。だからこそ、まずは相手の話をしっかり聞き、「何をしたいのか」を捉え、「どこを目指すのか」を一緒に考えることからスタートします。
私たちの仕事は、伴走し続けて、コンサルティングで利益を得ることではありません。最長でも1 年半という期限の中で、いかに企業が自走していける状態をつくれるのか。言うならば、家庭教師というイメージでしょうか。
「この手順でコンセプトを考えてみてください」「この範囲でリサーチしてください」。多少時間がかかったとしても、自分で考えて答えを出すことは納得感があり、その後の推進力が違ってくる。だからこそ、できるだけ自分で考えて動いてもらうことが重要なんです。
私がコンサルティングを担当しているブランドのひとつが、11 月1日にオープンした中川政七商店渋谷店で、無事にお披露目されました。「会津木綿 青㐂製織所」。今もまだ経営は順風満帆とはいかず、量産体制もありません。でも、なんとかお客様に手にとっていただけるところまで進めてこられて、私自身もとても感慨深かったですね。
「会津木綿 青㐂製織所」を運営する株式会社IIE さんは福島にあり、東日本大震災当時、むしろ特需を受けていました。それほど努力しなくてもメディア露出の機会を得ることができ、お客様の支持もいただいていたんです。ただし、そういった好機も時間が経つごとに減っていき、売り上げが右肩下がりの状況に。
会津木綿は、「日本の工芸を元気にする!」という中川政七商店のビジョンに基づけば、優先順位高く取り組むべき対象です。というのも実は会津木綿は、IIEさん以外に2社しかないんです。きちんと生産し続ける体制を整えて、お客様が会津木綿に触れ続けることができるようにという使命感は、ご相談を受けた時、当然のように感じました。
ただし、誤解を恐れずに言えば、困っている工芸の会社さんであればどなたでもサポートするわけではありません。例えば「とにかく儲かるようにして欲しい」とだけ言われたとしたら、絶対にお引き受けしません。
私たちは、経営者の覚悟を見ています。それは、経営者が誰よりも責任を負って、「ものの良さを次の代にも引き継ぎたい。そのためにはこれまでのやり方を変えなければいけない」という強いコミットメントを持っているのかが、コンサルティングを進めていく上で、最も重要なことだと思うからです。一時的に、外部からのサポートが入って、商品のデザインが良くなり売り上げが上がったとしても、継続できなければ意味はないから。
1社ごとに向き合い、最⾧で1年半の間伴走するコンサルティングの仕事。担当できる企業の数は限られるため、すべての企業にお応えできるわけではありません。そこで、2016年から教育事業もスタートさせました。コンサルティング事業を家庭教師と表現しましたが、教育事業を例えるなら塾講師でしょうか。一度により多くの企業に対して、経営やブランディングの手法をお伝えする場です。
宿題などの個人ワークと、ケーススタディを盛り込んだ集合型研修、懇親会やチャットを活用したネットワーキングを組み合わせたプログラムをご提供しています。例えば、自社の中期経営計画を作成してもらうのですが、講師からの何度かの添削を通じてブラッシュアップしていく。
最終回となる成果発表会ではビジネスプランの発表もあり、優秀なプランについては事業化まで支援します。例えば、国産果実と奄美産さとうきび糖でつくった、モナカアイス。第一食品さんの「みもな」は、三条市で行われた教育講座から生まれたブランドです。コンビニでも取り扱いになるなど、大きな反響を呼び、成功事例のひとつになりました。
工芸が元気になったその先、未来を描いていく仕事は、貢献感も充実感もあってワクワクするもの。当然ながらコンサルタントだけで実現できることではなく、「メーカーさんの、意思と強み」を引き出し、「デザイナーさんの、アイデアと表現力」に落とし込んでいくことが必要です。そしてもちろん、「コンサルタント自身の、推進力とアウトプット」も重要。たくさんの人の想いと力、何かひとつ欠けても実現することはできない仕事なんです。
だからこそ、自分の持ち場では高いパフォーマンスを発揮しなければいけないというプレッシャーもあります。限られた期間の中で、どれだけ良いアウトプットが出せるのかは、ひとりきりの孤独な時間に、どれだけ自分自身が努力できるかにかかっているんです。
時には、人生の大先輩のような方を相手に、「そんなレベルではダメ」「もっと考えて」「それでは進められない」と迫らなければいけない。綺麗事ばかりではありません。自分の判断が相手の人生に大きく影響することを心に刻んで、向き合わなければいけないんです。
でも信じているのは、相手のことを思う気持ちや、自分がどれだけ考え抜いたかは、必ず相手に届くということ。私にも、相手がどれだけ本気かそうではないかは届くから。
「日本の工芸を元気にしたい」という前向きな気持ちに従うことはもちろん、「あの時こうしていれば」という後悔も絶対にしたくないから。孤独な時間とも経営者の皆さんとも、これからも真っ直ぐに向き合っていこうと思います。